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執筆者の写真松井重樹

週刊読んDayMonth 20200515

更新日:2020年7月30日

2020年5月15日(金)


「本屋を守れ」=読書とは国力=藤原正彦著 :PHP新書(2020年3月26日第一版第一刷)

 月刊「Voice」で、「国語力なくして国力なし」(2004年6月号)・「読解力急落、ただ一つの理由」(2020年2月号)・「読書こそ国防である」(2017年3月号)・「町の書店がなぜ大切か」(2017年11月号)・「デジタル本は記憶に残らない」(2018年5月号)・「本を読まない「日本の反面教師」トランプ」(2018年11月号)・「日本は「異常な国」でよい」(2019年3月号)・「国家を瓦解させる移民政策」(2019年8月号)と、くりひろげられたインタビューをまとめ、手をくわえ、著者の憂いを警鐘として打ち鳴らす叫び。

 次のような流れで、その論を受けとめることができます。

①グローバルなどという言葉に身を委ねる能天気な国は日本だけである。

②グローバリズムすなわち新自由主義は、帝国主義や共産主義と同じく、人類を幸福にするものではない。やがて消え去る世界潮流の一つに過ぎない。

 教育という国家百年の計を、遠くない将来に泡のように消えてしまう思潮に身を寄せていていいのか。

③人間にとって、情報がいくら増えようと無意味であることを知るべき。

 人間は本を読むことで初めて孤立した情報が組織化され知識となり、体験や思索や情緒により知識が組織化され教養となる。

 たとえば宮沢賢治の「よだかの星」を読んで涙を流す、という経験を一度でもした人が、弱い者いじめにはしるだろうか。

④日本人は伝統的に情緒を重んじる民族。中国のように利を尊ぶ国とはまるっきり違う。

⑤「人間は、思考の結果を語彙で表わしているばかりではない。語彙を用いて思考している」。

 物事を考えたり思うとき、独り言として口に出すか出さないかはともかく、頭の中では誰でも言葉を用いて考えを整理している。

 たとえば好きな人を思うとき、「好感を抱く」「ときめく」「惚れる」「一目惚れ」「べた惚れ」「愛する」「恋する」「片想い」「横恋慕」「恋焦がれる」「初恋」「老いらくの恋」「うたかたの恋」など、さまざまな言葉で思考や情緒をいったん整理して、そこから再び思考や情緒を進めている。

 もし「好き」と「嫌い」しか語彙がなかったら、ケダモノのような恋しかできない。

 つまり、「語彙がないイコール思考も情緒もない」ということ。

⑥日本人は、四季豊かな日本語の語彙によって育まれ、日本人たりえてきた。

⑦したがって、小・中・高校時代における語彙の獲得は、絶対的な使命。

 現にOECDの調査でも、読書をする人はPISAの読解力が平均して45点ほど高く、新聞を読む人は33点ほど高いという。

 読解力急落の答えが読書離れにあることは明白なのに、「デジタル化を進めれば読解力が上がる」などという政・官・財の思考放棄は嘆かわしい。いまの自分が置かれた立場での利益しか、みえない。みえていない、みようとはしていない。そんな、遠望が出来ない者が、各界のトップに立てる、立つ…それが、現在の日本。

⑧小学校教育の最大目標は、「自ら本に手を伸ばす子」を育てる。

 これが人間をつくり、日本人をつくる。(p56)

⑨人間の想像力や創造力の源となるのは、「孤独」。

 たった一人で自分自身と向き合い、本と向き合うことは、他の行為では替えが利かない。

 孤独を知らず、毎日スマホのメールを分刻みで確認する生活を送っていたら、沈思黙考のしようがない。孤独なしに情緒の深まることもない。

 インターネットやスマホは、若い人びとから思考や深い情緒の成長を、奪っている。

⑩人間の深い情緒は、究極的には人間の死に結びついている。

 有限の時間ののちに朽ち果てる、という根源的悲しみがすべての情緒の中心にある。

 したがって、逃れられない死のないAIは永遠に深い情緒を身につけることができない。

⑪人間が直接、経験できる世界の範囲はあまりにも狭い。

 その実体験を補って余りあるのが読書。私たちが家族以外に真に心を通わせられる相手は、一生のうちせいぜい二、三人。ところが、書物の世界では、無数の作者や登場人物とのあいだで深い心の交感ができる。(p87)

 ユダヤ人が2000年の流浪の旅の末にイスラエル建国にたどりついた強靭な魂、チベット:ダライラマ14世がおかれた現世現実に行われている民族絶滅に抗する魂、台湾あるいはベトナム、いま香港が志す歩みと、朝鮮半島国の歩みの差異。そして、独立国家として、民族として今日に至ることが出来た日本の本質。

著者がうちならす警鐘に、私たち一人一人が響き合わなければ、日本の明日は…、日本人の明日は…、ない。

​​

 若人よ、見た目の青春ではなく、精神を謳歌したい若人よ…。

書をもちて、野を駆け、街に出でよ。


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