◇2022:買って読んで…ム武無夢務!◇
◇春夏秋冬読んDayMonth◇
20210930
20210424 Blog掲載
20201127 20201120
20201113 20201106 20201030 20201023
20201016 20201009
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◇春夏秋冬読んDayMonth◇
2021年09月30日
「嫌われた監督」鈴木忠平著 2021年09月25日第1刷発行 (株)文藝春秋
1974年10月14日(月)私は後楽園球場にいました。前々日明らかになった長嶋茂雄選手の引退ダブルヘッダーを観るためでした。その同じレフトスタンドに、同級生にあたる落合博満がいたことを後年になり、知りました。その落合博満の名を最初に知ったのは、秋田出身のサラリーマン同期生二人の口からでした。この4年後、ドラフト3位でロッテ・オリオンズに指名された折でした。「あの落合が…」と、高校も、やっていたスポーツも違うのに…。
さて、本を開いて文字を追うと間もなく、目が離せなくなりました。
2020年11月27日(金)
「自分の中に毒を持て」新装版
2020年09月10日第17刷
岡本太朗:青春出版社
岡本太郎さんが、85歳に達せられる50日前に亡くなられて、まもなく25年。
「太陽の塔」も「芸術は爆発だ」も、いまだ斬新さを失わないでいる。
「相手の中から引き出す自分 それが愛」という思いは、「人間だから、花だから、と区別することはない。いのちの共感は一体だ」という感動の根っがあってこそのものであろう。
11月06日とりあげた鈴木忠志がプロヂューサー役の富山県利賀村「国際演劇祭」のことが、「世界の祭り」としてP236に記されている。
生きる手ごたえ、無償の歓喜、いのちの原点が百花繚乱として、咲き誇る。
己を超え、宇宙と一体となる。己を虚しくすることで「いのち」を確認し、花開くことができる。ビック・バンは、消滅か誕生か…。否、消滅であり誕生なのだと、この一冊が問いかけてくる。
2020年11月20日(金)
「未踏のエンベロープ」
2020年10月31日初版発行
全撮影:徳永克彦/文:武田頼政:ホビージャパン
「From The Earth To The Moon 」、米国35代大統領J.F.ケネディの演説に期するこの計画を宇宙飛行士選びの視点から1979年発表された「ザ・ライト・スタッフ」。その4年後に映画化された作品に描写された「音速を超えた最初の人類」チャック・イェーガーの存在が、テスト・パロットの代名詞として、私の心に大きく深く刻み込まれている。
航空自衛隊にテスト・パイロットコースが新設された1969年から半世紀を期しての撮影記録が凝縮されたこの一冊をみると、あらためて自分のあこがれがなんであったか、想いがめぐる。
私の父の弟、つまり叔父は、太平洋戦争中ラバウルで航空整備兵として従軍し、母の従兄弟はパイロットとして南の空で散華。
人物のみならず、機体をも生き生きと躍動し、操縦する操縦される内外の拍動が聴こえくる。あったかく包み込む文章との編隊飛行に加わっているかのような読後感に、大空が心の中にひろがってゆく。
◇週刊読んDayMonth◇
2020年11月13日(金)
「文藝春秋 十二月号」
表紙に躍る藤原正彦さんの「亡国の改革至上主義」を読まずして…。そしていつもの巻頭エッセイ、今回は「目覚めた美声」。
論調は、一貫したもの。
今回のサブタイトルに躍るのは、「菅総理よ、「改革」を売り物にするなかれ」そして「新自由主義にもとづく、国家間なき「構造改革」は日本をさらに分断させる。人間社会には「効率」より大切なものがある」。
まさに、わが意を得たり。
「もののあわれ」に共鳴する段に達したという美声をめぐる巻頭エッセイには、いつも以上に笑みがこぼれます。
2020年11月06日(金)
「Kinosaki International Arts Center」
2020年02月01日第1刷発行
城崎国際アートセンター発行
編集/吉田雄一郎&松本美子
前々日訪れた城崎国際アートセンターでいただいたA5版96ページからなる2020年度プログラムです。
当館芸術監督平田オリザさんが「新しい荒野へ その冒険のベースキャンプ」と巻頭に寄せたあいさつをはじめ英文訳を添えたプログラムそれ自体を一つの作品として構成されています。
富山県南西部標高600m人口数百人の利賀村で「世界演劇祭:利賀フェスティバル」が開催されたのが1982年。演出家鈴木忠志さんが劇団「早稲田小劇場」を「SCOT」にあらためこの地に活動拠点を移し、「世界は日本だけではない、日本は東京だけではない、この利賀村で世界に出会う」を合言葉にした、その一環一連の活動を想い起すことが出来ます。その地は現在、富山県利賀芸術公園として継承されています。
注目し足を運んだこともありながら、ただその当時もいまも、世界と言いながら参加国やその視野に偏りを、私は感じていました。
故蜷川幸雄さん、故浅利慶太さん、野田秀樹さん、宮本亜門さん、鈴木忠志さん、…そして平田オリザさんと名を連ねるまでもなく、演劇の世界においては…、演出家が幹であり指向であり羅針盤として存在することを理解しつつ、兵庫県は、豊岡市は、城崎国際アートセンターは、「守→破→離」懐深くあまねく行く手広く成長してゆくことを願っています。
2020年10月30日(金)
「Good Luck」
2004年06月22日第1刷発行 2004年06月24日第2刷
AlexRovira&Fernando Trias de Bes共著
/田内志文訳:ポプラ社
釣瓶落としの夕陽に哀愁を感じはじめると…、
つい書棚からとりだす一冊。
なぜか…。
「この本を書くのには8時間しかかからなかった。
だが、この本を考えるのには3年もの月日がかかった。
人はもしかしたら「たった8時間か」とおもうかもしれない。
だがもしかしたら、「3年もかかったのか」と思うかもしれない。
前者は、運の訪れを待つ者たちのこと。
後者は、幸運への下ごしらえをできる者たちのこと。」
すべては、このあとがきを噛みしめなおす…、
そんなところにあるように思えるのです。
2020年10月23日(金)
「コリン・パウエル:リーダーを目指す人の心得」
2017年06月24日第1刷発行
共著トニー・コルツ/井口耕二訳:飛鳥新社
ラグビー・ワールドカップ2019日本大会から、
ちょうど1年がたとうとしています。
対アイルランド&スコットランド&サモア&ロシアとの五か国プ-ルAで全勝し、10月20日南アフリカ共和国との準々決勝に臨んだ日本チームの戦士から、折に触れ、繰り出される「ワン・チーム」という言葉が一躍脚光を浴びました。
私の心に「ワン・チーム」という言葉が刻まれたのは、
一足早く、この著作からでした。
著者がアメリカ軍制服トップである統合参謀本部議長時代に、
アメリカ南方軍司令官ジョージ・ジョルワン将軍が、
どのようなメッセージも
「ひとつのチーム、ひとつの戦い」
というスローガンで締めくくられていた…、
そのことに感銘を受けたという逸話の紹介からでした。
一年前、神戸市御崎公園球技場でも9月26日イングランド×アメリカ合衆国、9月30日スコットランド×サモア、10月3日アイルランド×ロシア、10月8日南アフリカ共和国×カナダが行われ、メリケンパークがファンゾーンの一つとして設営され、欧米人が街に溢れかえっているのを、ちょうど本会議中だったことから、目の当たりにしました。特に9月26日は、ペインティグを施したイングランド×アメリカ合衆国の応援観衆と、市内のあちこちで遭遇したものです。
コロナ禍のいま、「下天の内をくらぶれば夢幻の如くなり…」と、「幸若舞(こうわかまい)」の演目『敦盛』(あつもり)の一節をBGMに、この本を読み返してみました。
2020年10月16日(金)
①「東大医学部」和田秀樹&鳥集徹著
2020年09月16日初版第1刷発行
:ブックマン社
開会中の決算委員会で14(水)登壇する「教育委員会」の知識・資料裏打ちに手にし速読しました。再確認できたのは…三つ。 ①ノーベル賞で京大に大敗している理由 ②1977年構想2002年開始の「ゆとり教育」で失ったもの ③2012年2月現上皇の冠動脈バイパス手術を東大医学部付属病院で私大の順大心臓血管外科教授の天野篤氏が執刀。お膳立てした東大医学部OBで皇室医務主管金澤一郎氏英断の意味。
②「週刊ダイヤモンド202010/17」
2020年10月12日発売:ダイヤモンド社
「超地政学」が特集ながら、目にとどめおきたかった記事は、「中国の頭脳獲得戦略」に取り込まれてゆく、日本人たり得たこそ到達の頭脳や技術がデラシネ根無し草になりつつある日本教育の蚕食についてでした。
いずれにしろ、「警鐘を鳴らし続けていかねばならない危機感」を、あらためて訴えることができました。
2020年10月09日(金)
「諏訪育ち」
柳子谷郁子著
2017年03月30日初版第1刷発行
:第三文明社
5(月)未明、パリ発で高田賢三さん逝去の第一報。
決算委員会委員で、先週~今週~来週と缶詰中…。
9(金)「産業労働部」の質問内容を熟考…
1.観光地の魅力向上について
2.中小企業のAI・IOT活用支援について
3.地場産業の海外展開について
4.高齢者雇用の促進について
この「3.地場産業の海外展開について」筆を走らせた原稿が以下のものです。
質問し終え帰宅後今日の夜更け、あらためてこの本に目を通すと…
Kenzoさんを訪ねてのパリ老年探偵団記述は「萌黄色のカーディガン」4ページのみ。
だからこそ、想い出が一杯の走馬灯に昇華する語りがより際立って脳裏に刻まれているのだと納得しました。
世界のKENZO、パリのケンゾーと称されるパリ・モードコレクションのレジェンド高田賢三さんが、亡くなられました。
4(日)から5(月)に日めくりされた直後の第一報に接し、その翌日朝刊で突然の訃報を報じる神戸新聞に、私にとってKENZOさんを語るにはなくてはならない存在の大学の先輩である柳谷義則さんが「「まだ生きていると思っている」と声を振り絞った。」との掲載記事。
姫路西高の同級生クラスメイトとして、当時学ランで風切る高校生の良いことも悪いことも生意気なこともやってきた仲だと、親しく聞かせられてきた語り口からくる哀惜の深さを想い、そしてまた奥様の作家柳谷郁子さんのエッセイ集「諏訪育ち」で描かれる、近年パリにKENNZOさんを訪ねた老年探偵団の人生修学旅行が繰り広げる、寝床の枕投げを思わせる自由な精神がなせる闊達さを想い、つい涙が紙面に落ちインクがにじんでしまいました。
KENZOさんのお姉さんが、ご自分の実家を舞台に丁々発止できりまわしておられた「お好み焼き屋 高田」。何度舌鼓をうったことか。世界のKENZO、パリのケンゾー、パリ・モードコレクションのレジェンド高田賢三をビッグバンに導びく助走路が、このお姉さんのかもしだす時空間だったのだなと、毎度毎度かみしめながら…。
そう、枕を振ったところで…。
県内には数多くの地場産業の集積があります。
かくいう話題には、ついつい製品に、商品に、仕上げられた「物品」に目が奪われがちですが、実は、淡路の、摂津の、丹波の、但馬の、美作の、備前の、播磨の、それぞれの四季の輪廻が馳せる風土と、そこに生まれ育ち、脈々と伝えられ伝えてきた得も言われぬ人間の息吹の舞いが織りなす「物語」があってこそ成せる業なのだと、あらためて申し上げたい。
姫路城下から、播磨から、兵庫から、日本から世界のモード・レジェンドになった高田賢三さんを偲びながら、この兵庫の土地土地地場産業の振興に向けた海外展開について、コロナ禍を乗り越え、県としてどのような目を向け支援をしていくのか、夢を語っていただきたい。
2020年10月02日(金)
「なまえのないねこ」 文:竹下文子 絵:町田尚子
2019年04月25日第1刷発行
2020年02月10日第9刷発行 :小峰書店
今期定例会では、
今日からの
決算特別委員会に入っており、
うち登壇質問日は☆印の6回×各30分
1(木) 運営要領等協議
2(金) 説明聴取
6(火)☆財政状況
7(水) 企画県民部①/②
8(木)☆健康福祉部
9(金)☆産業労働部&労働委員会/☆公安委員会
12(月) 農政環境部
13(火)☆県土整備部
14(水)☆教育委員会
15(木) 病院局/企業庁
19(月) 総括審査
期間中は、
質問原稿作成の缶詰状態です。
潤いに持ち込んだ一冊の絵本が、この一冊、
日本絵本大賞に輝く
「なまえのないねこ」。
だれにも
なまえをつけてもらったことがない
ねこのものがたり。
こころのなかが
あめのおとでいっぱいになったときに
よびかけてくれた
やさしいこえ
ほしかったのは…!
2020年09月25日(金)
「地球の歩き方 東京 2021~22」:江戸とTOKYOの魅力を満載!
2020年09月02日初版発行:ダイヤモンド社
1979年創刊の旅行ガイドブックの老舗『地球の歩き方』が、シリーズ初の国内版となる「東京 2021~22」を出しました。
ぶ厚く、手に取ればあらためて驚く重量感。
「江戸とTOKYOの魅力を満載!」とあるように、東京を語りながら洋綴じ、つまりは左綴じです。
ページを繰れば、エリアガイドは、皇居より新宿よりお台場より、日本橋から始まります。
出版の経緯は、当然ながらこの夏開催予定だった東京オリンピック。
創刊40周年を記念しての、歴史もグルメもパワースポットも体験もお買い物も、すべての行くべきところが一冊にまとまっています。
子育て世代の読者なら、子どもが単語を調べるのに「電子辞書ではなく、紙の辞書を使え」と言った経験がある人も多いはず。パラパラめくるうちに、お目当てとは別の情報が飛び込んでくるのは紙媒体ならではのメリットが体現されています。
法務省出入国管理統計によると、『地球の歩き方』が創刊された1979年の海外旅行者数は約400万人。2019年は約2000万人。
『東京の歩き方』が、日本人の老いにも若さにも新たな好奇心をくすぐるにちがいありません。
2020年09月18日(金)
「土 地球最後のナゾ」100億人を養う土壌を求めて
藤井一至著
2018年08月30日初版一刷発行
2019年08月10日第七刷発行:光文社
人口減少を憂う我が国内とは裏腹に、21世紀中に100億人に達するという世界人口。その際、一人あたりの耕作畑面積は、45m×45mにすぎないといいます。
土色…と一口にいいますが、著者は冒頭に自身の幼少年期学校での図画授業での顛末を交えて、想像以上に多彩な土があること。後年、研究を始めて、初めて大雑把に分けても12種類以上の土壌があることを、知ったと打ち明けています。
「イネのことはイネに聞け 農業のことは農民に聞け」(横井時敬)に続けて、「土のことは土に聞いた。世界中の土とつながっているのだ」のレベルに達した著者の自負は、研究の先人たちへの感謝がにじんでいます。
日本における、山からもたらされる河川水のカルシウムやケイ素の潤沢さ。
足もとに拡がる小宇宙の魅力を認識して、一年一度の水田耕作、どろんこ遊びに興じたい。秋晴れの空のもと、稲刈りに汗する日が近づいています。
2020年09月11日(金)
「宇宙飛行士、「ホーキング博士の宇宙」を旅する」
若田光一著 イラスト:小山宙哉
2020年09月01日号初版発行:日本実業出版社
1
2014年、国際宇宙ステーション滞在中の著者が、地上のスティーブン・ホーキング博士と交わした対話を切り口に、「ホーキング博士の脳内を、宇宙飛行する」思索本。
「人はみな、未来に向かってともに旅するタイム・トラベラー」というホーキング博士の言葉。
今日を生きる連帯、明日に向かう勇気、好奇心、意思。学生時代に発症した筋萎縮性側索硬化症(ALS)で車椅子生活を余儀なくされながら、発想と理論を自由自在に駆使することにより精神の独立を雄飛した博士に、著者ならずとも触発されずには…おれません。
2020年09月04日(金)
「Number1010 藤井聡太と将棋の天才」
令和2年9月17日号:文藝春秋
1
9月17日号とあっても、発売日は9月3日。
Sports GraphicのNumberが、初めてスポーツ以外、それも将棋を取り上げるとあって、事前からの話題席巻を予想しつつ、ぜがひともその一刷を発売日当日に店頭で手に入れようと心待ちにしていました。
予想に違わず、いや予想以上の誌面構成。関根金次郎名人&坂田三吉、高野山決戦陣屋事件など木村義雄実力制初代名人14世名人を取り巻いての大山康晴15世名人&升田幸三実力制第四代名人以後の、きょう今日現在の藤井聡太二冠を本流に寄せる巧みな将棋世界探訪記になっています。
Numberの面目躍如、新たな読者、新たな世界がひろがりましたね。
2020年08月28日(金)
「日はまた昇る」
アーネスト・ヘミングウェイ著
宮本陽吉=訳
昭和47年08月15日第1刷発行:講談社文庫文庫
1
この作品の見返しには、「世は去り世は来たる 地は永久に長存なり 日は出で日は入り またその出でし処に喘ぎゆくなり 風は南に行きまた転りて北へむかひ 旋転に旋りて行き 風復その旋転る処へかへる 河はみな海に流れ入る 海は盈ること無し 河はその出きたれる処へ復還りゆくなり」と、伝道の書の引用があります。
日常の生活から、確かな柱を求めながら、負わされた痛手を克服し生きる過程に心が打たれます。
「無」。エーリヒ・マリア・レマルクの「西部戦線異状なし」にも描かれた第一次世界大戦に志願しアメリカから欧州に渡った青春をもつ、ヘミングウェイの作品にみられる葛藤の人生テーマが、この初めての長編作品にも色濃く投影されています。
2020年08月21日(金)
「昭和天皇」下
HIROHITO AND THE MAKING OF MODERN JAPAN
ハーバート・ビックス著
吉田裕=監修 岡部牧夫・川島高峰=訳
2002年11月25日第1刷発行:講談社
1
P71末に、「ルーズベルト大統領は、この時点では望んではいなかった日本との戦争をすることとなった」という記述があります。
この一文をもってでさえ、如何なる視点がこの著作を貫いているかが解ろうというものです。
権威と権力、その差異を見いだす峰に想いが及ばない…。
2020年08月14日(金)
「昭和天皇」上
HIROHITO AND THE MAKING OF MODERN JAPAN
ハーバート・ビックス著
吉田裕=監修 岡部牧夫・川島高峰=訳
上:2002年07月30日第1刷発行:講談社
18年前、タイトルそのものにくわえ、ピュリッツァー賞受賞(2001年)作品ということで、興味を惹かれ購入したものでした。
しかし読み進めるほどに、巻末にある参考文献の数の膨大さからうかがえる、
「意思なき君主」か「意思ある大元帥か」構想10年20世紀日本最大のテーマにこたえる…という帯に書かれたキャッチ・コピーの大層さに辟易してきました。
18年ぶりに掌にひろげてみて、そのことを思い出しました。
そして、いまだアメリカUSAの「こういうとらえ方も、ありか」。
ではなく、
「人それぞれぞれ物差しが違う。その持ちうる物差しでしか…測れない、そのことの証明。
それゆえの受賞とすれば…合点がゆく」。
そう逆説の論理で、その辟易さを押し出したものでした。
2020年08月07日(金)
「李登輝」 -新台湾人の誕生ー
著者:角間隆
2000年09月01日初刷第一刷発行
小学館
4日(火)14時~15時兵庫県公館での先の大戦から3/4世紀を期した
兵庫県戦没者追悼式に参列した際、父や、父の死後とみに親しく誘われ
語っていただいたその戦友たちから受けた「日本人として生きる意義」が
むくむく想い起されてきました。
何かしら…、違和感を感じたからでしょう。
帰宅してから、手にしたのが先週に続き、「李登輝さん」でした。
12年間の総統時代を無事に務めあげた氏が、退任後、世界でいちばん先に独占インタビューに応じられたのが、この取材班です。
「少年時代の小学館と、青年時代の岩波書店は、私の精神生活の二大バックボーン」だからと明快に語られています。
すべての原点は哲学、すなわち「人間とは何ぞや」というところ、禅からの問いかけに始まる精神的背景は、すべて台湾統治時代の日本の教育でなっていることを赤裸々に誇りをもって語る氏に、日本という国の原点を、立つ位置を、地政学上から逃れられない大陸への毅然たる矜持を、いかに示すか。
刷新の二文字が浮かぶ読書になりました。
2020年7月31日(金)
「風塵抄 二」
司馬遼太郎著
1996年04月30日初刷印刷
1996年05月10日初版発行
中央公論社
:産経新聞朝刊掲載1991年10月~1996年2月
前夜、元中華民国元首 李登輝さんが亡くなられる報に、彼の著作よりも前に司馬遼太郎が出会った折の印象を書きしたためていた、こちらを手に取り、ページを繰りました。
1993年1月13日・14日と「台湾で考えたこと 公と私」と題して二部構成。
孫文は、中国の近代化を志すにあたり、中国人の「私」についてときに恐怖し、ときに絶望していた。歴世の庶民にとって王朝は「飢えた虎」といわれたように、本質として「私」だった。蒋介石氏が英雄であったことはいうまでもないことにせよ、その王朝が伝統的な「私」であったことは紛れもない。
しかし、大陸からきた人でない本島人(本省人)の李登輝さんが元首に選ばれたのは「公」の意識の芽生えであるかと思える。
クリスチャンである李登輝さんに明治人を思った。新渡戸稲造や内村鑑三の印象と重ねて、武士的なひとがプロテスタントになったことを思った。
「私の魂には、ピュアな純粋な日本人の精神があります」
誤解してはいけない。ピュアな日本人など日本之どこにもいない。日本時代の初等、中等、高等教育をうけたとき、日本人でもありえないほどの知的武士としての知的武士としての教育をうけとったという意味なのである。
そんな司馬遼太郎をしての印象を、あらためて胸に刻んでの一服の涼となる一冊。このころ、ほぼ月1回の掲載を楽しみにしていたころの我が青春を思い出しました。
「1兆ドルコーチ」
シリコンバレーのレジェンド
ビル・キャンベルの成功の教え
2019年11月13日第1刷発行
2020年01月17日第4刷発行
エリック・シュミット
&ジョナサン・ローゼンバーグ&アラン・イーグル著
櫻井祐子訳 ダイヤモンド社
情報はいまや人の生活を豊かにする領域をはるかに超え、
自らの心の弱さに乗じて意思も意向も行動も支配されかねなくなっています。
何より恐ろしいのは、
目の前に闊歩する情報に踊らされている己に気づかぬまま、
心にはびこるモンスターに蚕食されてゆく「生」。
その一方で、
一つ一つの心をコントロールし、
思うがままに操ろうとする別の「生」の存在。
ジキルとハイド、その狭間を、大きな潮流として権力をわしづかみする道具にと企むものにいかに抗するか。
正直で謙虚な人材を見極める資質には、正直に自らの弱点を認められるかが、求められます。
人のあるいは相手の弱点に乗じて自分を構築するのではなく、
立ち上がって「応援」する気構え、というより他者を優しく見守る心をいかに自分のうちに構築するか。
「ビルならどうするか…」
「人がすべて」という原則のなかで、そんなふうに思い浮かべられる存在になることは、何より得難い存在でありましょう。
一人のレジェンドの物語ではなく、目指す存在ではなく、目指せる存在として「ビル」をひもとき、自分を高みに引き上げる…、チームを育て上げる、そんな視点を一つでも得ようとする努力を試みたいと思います。
2020年7月17日(金)
「僕は生涯そば打ちでいたい」
そば屋 翁 高橋邦弘 著
(株)文藝春秋
2002年11月10日第1刷
気付けば…、二日続けて同じ店で蕎麦を手繰っていました…。
大盛りに新ショウガの炊き込みご飯、蕎麦豆腐…、翌日は酢橘そば大に…わさび醤油漬け、そば豆腐揚げだし、しめにもりを追加…。
しばし待つ間、この蕎麦屋ご亭主師匠の高橋邦弘さん著書「僕は生涯そば打ちでいたい」師匠添え書きが裏表紙に記された
河出書房新社発行の単行本を…
昨日も今日も…手繰っていました。
私の書棚にあるのは…
今はない広島県豊平町長笹「達磨・雪花山房」を訪ね、
もり蕎麦を5枚食べてきた折に帳場で買い求めた文春文庫版。
サラリーマン生活10年を経て栃木県は宇都宮での手打ちそば修行、3年のち1975年12月28日東京は目白で「翁」独立開店、1986年4月23日山梨「翁」開店、2002年1月広島の地で「達磨」開店。
単行本発行1998年12月以降の、著者の歩みを、新しく加筆訂正されたものです。
夜帰宅して手にとり寝床で読み返してみました。
初夏の日差しを木陰に求め、眼下からの、ちょうど田植えが終わった水面の照り返しと瞬きしあいながら、順番を待っていた点描が思い出されてきました。時折の深呼吸が新呼吸になり、寝息になっていったのは言うまでもありません。
2020年7月10日(金)
「星空の飛行士」
油井亀美也・ 林公世&宇宙航空研究開発機構
実務教育出版
2019年11月10日初版第1刷
雨…雨…雨…。
七夕に…身も心もぬれそぼつ天の川の号泣。
未だ際限が定まらぬものとして…
新型コロナウィルスの感染様相に、
令和2年七月豪雨と名はつけどの梅雨前線の活発化が
くわわってしまいました。
自衛隊パイロットから39歳でJAXA宇宙飛行士に選ばれた著者が、
2015年七月23日~12月11日までの142日間に
地球周回衛星軌道から撮りためた写真を夢前案内人に仕立てた一冊を書棚から取り出し、雨雲の向こうに、満天の星を見いだそうと試みています。
2020年7月3日(金)
「世界と人間」 思うままに
梅原猛著
文藝春秋
1994年06月15日第1刷
1994年07月10日第2刷
京都学派に連なる一員で、昨年1月12日に93歳で亡くなられた著者が、1992年1月から翌年7月中旬まで、東京新聞あるいは中日新聞に「思うままに」の標題で週1回連載したエッセイを収録したもの。
30年近く前に書かれているにかかわらず、内容はまさしく今日ただいまに通じます。
例を三つ挙げてみましょう。
先ずは「直感の訓練」。
ノーベル化学賞1981年受賞の福井謙一氏が中教審の会長職にあり、教育過程改定の段に際し提案し、義務教育に平面幾何学を取り入れた話題。
平面幾何学は直感の学問であり、一本の補助線の発見でたちどころに難問が解ける。独創的な学問を生み出すのは、何よりこの直感。
創造には飛躍が必要だが、この飛躍を与えるのは直感。
数学者岡潔氏は、数学はひらめきであり、ひらめきは子供のときの蝶々捕りによって養われたといい、物理学者湯川秀樹氏は、室戸台風で木々が吹き飛ばされる風景に通念が吹き飛び、中間子論を直感したと自ら言われ、生物学者今西錦司氏は学問に必要なのは玄人の直感と。
これから日本は創造的学問を生み出さねばならないとすれば、まさしく直感を養う教育が必要です。
第二に、「金メダルと飽食」。
当時はバルセロナオリンピック。ただし、ここで展開されたのは個人のレベルではない。そのうえで、国内にストレスを持っている国ほど成績がよいのではないかと投げかけておられる。
社会主義社会は、資本主義社会よりはるかに高いストレスを内部に抱えている。経済は苦しく、国民は自由を求めてさまざまな不平不満がおこる。その解消に、あるいは目先をかえさせ、同じ方向を向かせるにスポーツが利用される。スポーツによっていまの国家が未だ強い力を持っていることを国の内外に示す。それが支配者にとって自分の国を安泰にさせる政策になる。
黒人が活躍するのは、黒人の独立国であるより、アメリカやカナダ、イギリスなどの先進国。国内における強いストレスが、国威の発祥になると同時に、被圧迫者、黒人の力を支配者である白人に知らしめることとなる。それゆえ、その国の白人は、オリンピックにおける黒人の活躍に誇りと憂いを同時に感じるだろう。まさしく、モハメド・アリがカシアス・クレイとしてローマオリンピックで金メダルを獲った公民権運動の前と変わらぬ騒ぎがおきているオバマ大統領政権下8年経過してのち今のUSA。
第三に、「日本の発展を考える」。
日本人の価値感が目先の生活をエンジョイすること→男性女性とも結婚を嫌い、結婚しても子供の数を減らそうとする。→経済力の鈍化→→外国人労働者の移入。
日本の繁栄を築いた大切な条件であった平均的道徳心の高さを、汗を流さずに金を儲ける風潮が、日本人の心を蝕んでいる。
いま日本ではあらゆる領域で世襲制の動き。その最たるものが、政治の世界。これは、経済的発展の原因である平等化への志向と逆行するものであり、徳川封建社会の昔に返すこととなり、決して望ましいことでありません。
26年前、こういう本に手が伸び目を通し、書棚に並べ、次なる出番の機会をいつにてもたせている幸せ。有り難い。
2020年6月26日(金)
「亡国のイージス」 :小説
福井晴敏著
講談社 1999年08月25日第1刷
2000年05月26日第10刷
世界中が武漢新型ウィルス禍に苦しむ隙をついて、
火事場泥棒のように、尖閣諸島への領海侵犯を連日繰り返す中共公船。
単に領土的野心のみならず、精神までも隷属させようとIT分野に情報操作までやってのける隣国が現に在り、その隣国に、かつて世界の警察官と自負したこともある自由主義国の大統領が自分の再選とひきかえに取引を持ちかけるという国際政治の嫌悪醜悪な現実。
そこへ、“日本全域を24時間365日、切れ目なく防護する”という触れ込みの「陸の盾」イージス・アショア配備計画を停止するという河野防衛大臣による政府発表。
視点をうつしてみれば、「新型コロナワクチンの治験を、オール大阪で…」などという、この期に及んでのセクト主義を、これまた扇情的にもちあげてみせる一部マスコミの姿勢。
真田広之主演で2005年映画化もされた原作本の帯には「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」と言う文字が躍っています。
寸時寸尺のいとまもなくいまも、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」、葉隠れ武士道の任務に就く自衛官が、自衛艦が、最大の抑止力となって、日本というこの国は守られています。
この事実を、艦上にあって潮風を頬に受ける知友のご子息と、その同志たちの心意気を想い、かみしめながら、1ページ上下2段組大枚650ページを超える長編をあらためて読みかえし、「ことの本質を見誤らない」眼を研ぎ澄ませ直さずにはおれない1週間でした。
2020年6月19日(金)
「目に見えぬ侵略 Silent invasion」
中国のオーストラリア支配計画
クライブ・ハミルトンCLIVE HAMILTON著
山岡鉄秀(監訳)奥山真司(訳)
飛鳥新社 2020年06月05日第1刷
2月26日、本会議一般質問にとりあげた項目のうち
「聖徳太子薨去1400年を好機にした広域連携」と
「水源の保全」は、まさにこの本が警鐘することと
合致する憂いから発したことでした。
「日出る処の天子、書を、日没する処の天子に致す。恙なきや」。
いままさにこの気概が問われているのが、オーストラリア。
それを「対岸の火事」としかとらえられず、「いきなり熱湯に入れると驚いて飛び逃げるカエルも、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう… ゆでガエル理論」に嵌められてしまうか。
人間としての尊厳、国家としての尊厳に立ち向かっていかねばならないおどろおどろしさに満ちた事実が現実が闇が国際社会が、ここにつまびらやかにされています。
民主党政権時代のいまから10年半前の2009年12月、小沢訪中団と呼ばれる当時の民主党議員団143名が胡主席の前に列をなし、1人につき1秒足らずの写真撮影に嬉々とするありさまを、今は亡き佐々淳行元内閣安全保障室室長は、「宗主国に恭順する近隣国の『朝貢の図』である」と非難された。
まったく同じ意見だった私は、そのときのヨイショを企て募り参加したひとびとを忘れたりはしていない。
そしていま現在も…。
人を人と見ず扱わず支配するものとする権威に恐れを成し、権力に取り込まれ取りつく側にまわるを嬉々とする人間に、反吐がでる。しかし、そんな帝国が現存し、人の魂そのものまで侵食してゆく恐ろしさ怖さ。遊興に大衆をまみれさせ魂を奪う古代ローマのコロッセオが、今日の地球を全世界を舞台に、いままさに牙を「一路一帯」というチョコレートで覆い隠し迫っています。
現代の聖徳太子に、
アメリカ独立戦争をしてのけたジョージ・ワシントンに、
現在の南アフリカ共和国に導くまで国家反逆罪で終身刑の判決を受け27年間に及ぶ獄中生活をおくったネルソン・マンデラに、
いかな苦難苦悩苦闘が…と想う一寸の魂を、持ちあわせる我でありたし。
2020年6月12日(金)
「まっすぐ生きる」 中野孝次著
春秋社 1998年11月15日第1刷
コロナ禍において、
世界中であからさまになった二つのこと。
人知が及ばぬことが手に触れる身近にさえあること、事にあたりいかに身を処するかで人間の品性が露わになること。
誰もが不安であるときに、煽りたて衆目をあびることで自らの不安を打ち消そうとするか、自らの不安を抑えながら指針を明らかにして周囲を鎮めようとするか。
身は何時か朽ち果てるとまで思い及ぶ人生観に達しているか、蜂の巣をつつくことに喜びを感じる性癖なのか。
今日の兵庫県議会本会議場での各会派の代表質問においても、コロナ禍がほとんどすべての項目に取り上げられました。その取り上げ方で、取り上げる側の人生の立つ位置が見えたように感じられたものです。
1925年(大正14年)生まれの著者を知ったのは、「ブリューゲルへの旅」。読みかえす時期がきた折りに、それはとりあげるとして、今週読みかえしたこの書では、この7日早朝に97歳で亡くなった叔母と同世代の方々が、どんなふうに人生を歩んできたか。歩まねばならなかったか。不足を先に口走るいまと異なる日本を日本人を、しんみり、じんわり、ずんと心に響かせます。
時代は変われど、人そのものは変わらない。
ひとえに「ひとのねうちは品位にこそあり」。
その高潔さは「自らが学ぼうとする熱意があってこそ」。
「経済は、
量として消費を煽り成長にとらわれるのではなく、
人間が生きるための質として問われなければ…」。
そして、老子の「道徳経」加島祥造訳を用いて
「我々が役立つと思っているものの内側に
空のスペースがあり、この
何もない虚のスペースが
本当の有用さなのだ。」と…。
2020年6月5日(金)
「開戦と終戦をアメリカに発した男
=戦時外交官 加瀬俊一秘録」
福井雄三著:
毎日ワンズ第一刷発行2020年4月13日
第四刷発行2020年5月30日
いつのころからか、その時々、自分でも気づいていない乾きを行間に気づかせ癒やしてくれる、そんな本が目の前に顕われる。なんとはなく、すいと手が伸びる、その先にある…のです。
今回のそれは、書棚からあふれ積ん読にしていたものがくずれ、目に飛び込んできた開いたページにありました。
東北大学総長西澤潤一の推奨「男性的人生論」立原正秋著(潮出版社)。ひろいあげてみると、文藝春秋1994年9月特別号。くってみると、各界名士が薦める緑陰の読書案内「夏休み一冊の本」の特集ページ。
「…戦後、封建制を壊すというから、間違いなく近代合理主義の時代が来ると思っていたら、金権の時代になってしまった。正しいことをキチンとやらずに裁量の幅を残しておいて恩に被せる。こんなところから不正が拡がっている。そして金と権力におもねる。
本書のエッセンスは、「強さは厳しさに裏打ちされ、厳しさはやさしさに裏打ちされ、やさしさはただしさに裏打ちされていなければならない」の二行にいみじくも表わされている。そして「ただしさは強さに裏打ちされていなければならない。…」と続くのだ。やさしい国になろうと思ったら強く厳しくなければならないのだ。やさしい国を希(ねが)う方々に。」と、生前ノーベル賞候補にもあがっていた西澤潤一氏。
ところが、直木賞作家で復刻「早稲田文学」編集長として活躍した立原正秋の蔵書は、「白い罌粟(けし)」と「美しい村」の二冊だけ。1926年1月6日~1980年8月12日の生涯だから、今年は没後ちょうど40年ということになる。その日のうちに、ジュンク堂書店に足を運んで調べてもらったが、絶版。
さもありなんと踵をかえそうとして、目に躍ったのが「加瀬俊一」の懐かしい名前。
初代国連大使。亡くなったのは2004年5月21日、満101才。
セオドア・C・ソレンセンがUSA35代大統領ジョン・F・ケネディのスピーチライターなら、加瀬俊一は戦艦ミズーリ号甲板で行われた降伏文書調印式をはさむ前後20年日本外交のスピーチライター。そんな名高い評価が瞬時に蘇り、よぎったのです。
開ければ一晩、一気。
松岡洋右に対し、歴史に残る結果とは異なる構想・見方・視点が提示され、目を洗われる思い。灰色の詰め襟服で偉丈夫イメージのスターリンは、人前にでるときはいつも10センチ底上げした靴をはいて身長163センチをかさ上げしていたこと。162センチに過ぎなかったチャーチルは、ボーア戦争の英雄という経歴を武器に堂々とふるまっていたこと。そんなエピソードを新しい観点に、人間模様が波間にきらめく陽光のごとく躍る評伝に、出会えました。
2020年5月29日(金)
「安藤忠雄 建築を生きる」
:評伝 三宅理一著
:みすず書房2019年12月24日第1刷発行
2020年3月16日第2刷
すでに書棚に並べている…
「安藤忠雄 建築を語る」(東京大学出版会1999年6月3日初版)
「NHK人間講座 安藤忠雄 建築に夢をみた」(2000年4~6月期)
「安藤忠雄 連戦連敗」(東京大学出版会2001年9月1日初版)
「建築家 安藤忠雄」(新潮社2008年10月25日発行 第13刷2009年5月15日)
そして
「建築家という生き方 27人が語る仕事とこだわり」(日経BP社2001年8月6日初版)…、とはひと味もふた味も違う、第三者による評伝。
活動報告Ⅵで触れているように、昨年8月2日(金)20回目を迎えた「アジア太平洋フォーラム 淡路会議」でゲストスピーカーの一人として立たれた安藤忠雄さん。これまで、幾度か目の当たりにしてきた話しっぷりとは全く異なる印象を受けました。ギラギラした目に刃をもって肩で風切る三度笠が、消えていたのです。なんだか肩の荷おろした大黒様が、花咲かじいさんよろしく閃光パッパパッパまき散らす、まさに花吹雪ショー。それでいて、遠山の金さんが御白砂で撒き散らす権力傘の桜吹雪のようなものをスッキリさっぱり削ぎながら「いなせ」は失わず、まさに、華に昇華された「一本刀土俵入り」かのように感じられたのです。
その理由の一つが、本書のあとがきからうかがえる。ここに作品として生かされている著者とのインタビューが、その当時きっと重ねられていたにちがいない。そのひとときひとときを、千夜一夜物語のように、一拍一拍一節一節、慈しんでおられたのではないか。
そしてリングサイドから「ボクサー安藤忠雄 あしたのジョー」を観戦する第三者的視野を、安息として得られたのではないか。そうして、たどりついた懐に奥深さが、いっそうめでてこられたのではないか…。
そんな種明かしと勝手にめでながら、楽しんで愉しんで、読みおえました。
そうして余韻にひかれ、最初に記した関連する蔵書をくっていたら、最後の「建築家という生き方 27通り」でペースダウン。のどに食いついてきたのが、新国立競技場設計者 隈研吾氏でも、前回56年前の国立競技場設計者 丹下健三氏でもなく、鉄のいまの強さより建物の生命への遠望をうったえる「法隆寺大工 西岡常一」氏。薬師寺高田好胤管主の言葉を借りて「求めても求めても菩薩というものには届かない。せやけども、私はこの道を捨てずにいく」。
33歳違い同じ9月のお生まれ、25年前4月に鬼籍に入られた生前の西岡常一さんと触れ交じあわれる機会はあったのだろうか…。
いずれであれ、どんな呼応を、どんな呼吸で、いまこの時なら…丁々発止と戯れられるだろうか。
その「公案 禅問答」滝しぶきに、こころをさらしてみたい。
2020年5月22日(金)
「鬼平犯科帳」 :時代小説
池波正太郎著
:文春文庫(1)1974年12月25日第1刷1989年9月5日第27刷8作品~768777677/7766161667/612(24)1994年1月10日第1刷3作品の計135編(うち特別長編5)くわえて「鬼平犯科帳の世界」池波正太郎編1990年5月10日第1刷。
著者池波正太郎がこの世を去ってちょうど30年にあたるGW5月3日より、書棚から取り出し、25冊合計はかったかはからずもかちょうど7600ページ、その一ページ一ページそれぞれに風を入れました。
そして…、3週間。
武漢新型コロナウィルス感染症対策に身を処する期間、こころの栞をそっとはがし、またもどす、一服の良薬となりました。
大正12年(1923)1月浅草に生まれた池波正太郎は、下谷の西町小学校を卒業後、12才で茅場町の株式仲買店に勤め、一般の人より一足も二足も早く、他人のなか、まさに人の間に入りました。商売柄多くの人と接触したことで、多感な心が揺さぶられ、人情の機微にふれたことであろうことは、想像に難くありません。
その彼が、時代小説を手がける創造の喜びへと至ったのは、機械工として軍事徴用され、旋盤にとり組んでからだといいます。そのころ手にしたという、アランの「精神と情熱に関する81章」。「物は、いろいろ推量してみたり、ためしてみたりして初めて知覚される」といったアランの言葉が、旋盤を相手に悪戦苦闘している彼の心身にそのまま結びついてきました。小説は、頭で書くのではなく、身体全体で書くものだといった実感が、おのずと自得されたのも、その時の体験と関連しているようです。
太平洋戦争末期には横須賀海兵団に入団し、武山海兵団を経て磯子の801空へ転属、米子の美保航空基地で敗戦を迎えました。
戦後は、東京都職員=下谷区役所で予防衛生係となり、徴税係に転じ、昭和30年(1955)目黒税務事務所を辞め、作家生活に。
昭和21年に書いた戯曲「雪晴れ」が読売新聞の演劇文化賞第四位に選ばれ、次作「南風が吹く窓」が佳作に入選。
選者の一人、長谷川伸に昭和23年から師事し、劇作研究会で研鑽を努め、「錯乱」で昭和35年に第43回直木賞を受賞。鬼平犯科帳の第1回作品「浅草・御厩河岸」が「オール読物」誌上に登場したのは、昭和42年(1967)12月。
「人間というやつ、遊びながらはたらく生きものさ。 善事をおこないつつ、知らぬうちに悪事をやってのける。 悪事をはたらきつつ、知らず識らず善事をたのしむ。これが人間だわさ」。
「小を見捨てて大が成ろうか」。
「人間という生きものは理屈とは全く無縁のものなのに…どうも、得てして理づめに生きたがるのがおかしい」
「小悪を捕えて手柄を立てむがため、お上の御役目をつとむる者が、もしも大悪と手をむすんでいるようなことがあっては一大事となろう」
鬼平を借りて、著者のうめきが…、今の世にも響きます。
2020年5月15日(金)
「本屋を守れ」=読書とは国力=
藤原正彦著
:PHP新書(2020年3月26日第一版第一刷)
月刊「Voice」で、「国語力なくして国力なし」(2004年6月号)・「読解力急落、ただ一つの理由」(2020年2月号)・「読書こそ国防である」(2017年3月号)・「町の書店がなぜ大切か」(2017年11月号)・「デジタル本は記憶に残らない」(2018年5月号)・「本を読まない「日本の反面教師」トランプ」(2018年11月号)・「日本は「異常な国」でよい」(2019年3月号)・「国家を瓦解させる移民政策」(2019年8月号)と、くりひろげられたインタビューをまとめ、手をくわえ、著者の憂いを警鐘として打ち鳴らす叫び。
次のような流れで、その論を受けとめることができます。
①グローバルなどという言葉に身を委ねる能天気な国は日本だけである。
②グローバリズムすなわち新自由主義は、帝国主義や共産主義と同じく、人類を幸福にするものではない。やがて消え去る世界潮流の一つに過ぎない。
教育という国家百年の計を、遠くない将来に泡のように消えてしまう思潮に身を寄せていていいのか。
③人間にとって、情報がいくら増えようと無意味であることを知るべき。
人間は本を読むことで初めて孤立した情報が組織化され知識となり、体験や思索や情緒により知識が組織化され教養となる。
たとえば宮沢賢治の「よだかの星」を読んで涙を流す、という経験を一度でもした人が、弱い者いじめにはしるでしょうか。(p87)
④日本人は伝統的に情緒を重んじる民族。中国のように利を尊ぶ国とはまるっきり違う。(p88)
⑤「人間は思考の結果を語彙で表わしているばかりではない。語彙を用いて思考している」。
物事を考えたり思うとき、独り言として口に出すか出さないかはともかく、頭の中では誰でも言葉を用いて考えを整理している。
たとえば好きな人を思うとき、「好感を抱く」「ときめく」「惚れる」「一目惚れ」「べた惚れ」「愛する」「恋する」「片想い」「横恋慕」「恋焦がれる」「初恋」「老いらくの恋」「うたかたの恋」など、さまざまな言葉で思考や情緒をいったん整理して、そこから再び思考や情緒を進めています。
もし「好き」と「嫌い」しか語彙がなかったら、ケダモノのような恋しかできない。
つまり、「語彙がないイコール思考も情緒もない」ということ。
⑥日本人は、四季豊かな日本語の語彙によって育まれ、日本人たりえてきた。
⑦したがって、小・中・高校時代における語彙の獲得は、絶対的な使命。
現にOECDの調査でも、読書をする人はPISAの読解力が平均して45点ほど高く、新聞を読む人は33点ほど高いという。
読解力急落の答えが読書離れにあることは明白なのに、「デジタル化を進めれば読解力が上がる」などという政・官・財の思考放棄は嘆かわしい。(p48)
⑧小学校教育の最大目標は、「自ら本に手を伸ばす子」を育てる、これが人間をつくり、日本人をつくる。(p56)
⑨人間の想像力や創造力の源となるのは、「孤独」。
たった一人で自分自身と向き合い、本と向き合うことは、他の行為では替えが利かない。孤独を知らず、毎日スマホのメールを分刻みで確認する生活を送っていたら、沈思黙考のしようがない。孤独なしに情緒の深まることもない。インターネットやスマホは、若い人びとから思考や深い情緒の成長を奪っている。(p139)
⑩人間の深い情緒は、究極的には人間の死に結びついている。
有限の時間ののちに朽ち果てる、という根源的悲しみがすべての情緒の中心にある。したがって、逃れられない死のないAIは永遠に深い情緒を身につけることができない。(p85)
⑪人間が直接、経験できる世界の範囲はあまりにも狭い。その実体験を補って余りあるのが読書。私たちが家族以外に真に心を通わせられる相手は、一生のうちせいぜい二、三人。ところが、書物の世界では、無数の作者や登場人物とのあいだで深い心の交感ができる。(p87)
ユダヤ人が2000年の流浪の旅の末にイスラエル建国にたどりついた強靭な魂、チベット:ダライラマ14世がおかれた現世現実に行われている民族絶滅に抗する魂、台湾あるいはベトナム、いま香港が志す歩みと、朝鮮半島国の歩みの差異。そして、独立国家として、民族として今日に至ることが出来た日本の本質。
著者がうちならす警鐘に、私たち一人一人が響き合わなければ、日本の明日は…、日本人の明日は…、ない。
若人よ、青春ではなく、精神を謳歌したい若人よ…。
書をもちて、野を駆け、街に出でよ。